1.2 看寿賞の歴史 昭和25年 4月に将棋界初の詰将棋専門誌『詰将棋パラダイス』が発刊。 昭和26年 (No 1) 看壽賞が創設され、第1回の受賞作品が7月に発表される。 病床で受賞の方を聞いた北村研一氏はそのわずか5日後にこの世を去った。 『槍襖』は香を後押しに順次、歩を押し上げる趣向作である。 昭和37年度 (No 2) 看寿賞の制定記事が37年7月号に載ったため、この年は36年7月から37年6月までを 昭和37年度とする変則的な年となった。作品選考では田中鵬看氏『宇宙』が圧倒的な支持 を得て受賞(次点は伊奈正夫氏の『日輪』)。また全日本詰将棋連盟が結成され、段級位、 詰将棋規約など全詰連の主たる事業の多くがこのときすでに始まっている。37年10月 28日には初の全国詰将棋大会が開催され、その席上で看寿賞授与式が行われ大いに盛り上 がった。 昭和38年度 (No 3,4,5) 前年度が36年7月から37年6月までの区切りだったのを1年ごとに修正するために、 昭和38年度は37年7月から38年12月まで1年半の区切りとなった。 またこの年度より、短編(19手まで)中編(21〜39手)長編(41手以上)の3部 門に分けられることになった。 作品選考の方だが、柏川悦夫氏の歴史に残る珍形作品が短編賞。曲詰に絶妙手を折り込ん だ門脇芳雄氏の『珠』が中編賞。創作不可能と言われた小駒煙詰を実現した黒川一郎氏の 『嫦娥』が圧倒的支持で長編賞に、それぞれ選ばれた。 昭和39年度 (No 6-13) 短編賞は酒井克彦氏の誤解率80%で話題を呼んだ15手詰。 中編賞は柏川悦夫氏の打歩誘導とその回避をテーマとする構想作。 山田修司氏の『織女』(歩なし煙)『牽牛』(貧乏煙)と安達栄司 氏の『オリンピック組曲』に奨励賞が贈られた。 昭和40年度 (No14,15) 奨励賞:岡田敏 山田修司 岡田作は盤面曲詰『王』で、双玉の珍品。山田作は香先香歩の手筋を含む 打歩もの。5月に上野公園内の七條兼三氏宅で第三回全国詰将棋大会が開 催され全国各地から90名が参加した。 昭和41年度 (No16,17,18) 長編:高木秀次 奨励賞:福田桂士『馬子唄』『宇宙遊泳』2局 高木作は変化紛れが多岐にわたる難解な構想作。福田作『馬子唄』は三種 の馬鋸を一局に組み入れた趣向作。福田作『宇宙遊泳』小駒図式で「とれ ない銀の手順」を表現した。8月に幻の棋書『将棋攻格』が内閣文庫で須 賀源蔵氏により発見される。この出来事は朝日新聞でも報道された。 昭和42年度 (No19,20) 中編:柴田昭彦 長編:駒場和男『かぐや姫』 柴田作は打歩をテーマとしたトリック作で多くの誤解者がでた作品。駒場 作は難解で斬新な収束の全駒都煙詰である。 昭和43年度 (No21,22) 長編:黒川一郎『天馬』『荒駒』2局 『天馬』は歩18枚を持駒とする三段馬鋸。『荒駒』は銀合入り馬鋸。 2局ペアとして出題され、好評を得た。 昭和44年度 どの部門も『該当作はなし』となった。 昭和45年度 (No23,24) 奨励賞:山本民雄 駒場和男『父帰る』 再出題のため、上記は奨励賞扱いとなっている。山本作は限定の遠飛車が テーマで氏の短編の中での代表作。駒場作は歴代の煙詰の中でも最高傑作 と誉れ高い還元玉全駒都煙である。 昭和46年度 (No25,26) 長編:若島正『地獄変』 奨励賞:田中鵬看 歩なし全駒シリーズ(代表作として『奔馬』) 若島作は合駒を交えた難解な手順の煙詰。作者は創作当時、高校生であっ た。近代将棋の発刊21周年記念として田中氏の歩なし全駒シリーズが始ま る。その作品群に奨励賞が贈られた。 昭和47年度 (No27,28,29) 短編:藤田剛 中編:上田吉一 長編:上田吉一『五月晴』 藤田作は11手ながら無解率が6割という難解作。上田作(中編)は二回の遠 角を放つ斬新な作品。上田作(長編)は新しいプロットの連取り作品。2部 門を受賞したのは上田氏が初めての快挙であった。 昭和48年度 どの部門も『該当作はなし』となった。 昭和49年度 (No30,31) 中編の佐々木聡氏作は打歩と二歩禁を組み合わせた構想作、長編の高田豊通氏作 は連取り+二種類の馬鋸を取り入れた趣向作であったが、両作とも余詰作だった。 昭和50年度 (No32,33) この年は上田吉一氏の独壇場。短編は心理的な難解作。盤面七枚ながら無解 者続出。『モザイク』は趣向作として独自の様式美を持ち、氏ならではの構 成となっている。 昭和51年度 (No34,35) 短編:酒井克彦 長編:山崎隆 酒井作はインパクトのある金捨てを実現した。山崎作は連取りと馬鋸を合 体させた新趣向で三百手越を実現した。 昭和52年度 (No36) 奨励賞:安達康二 詰将棋パラダイスの鶴田主幹が体調を大きく崩し入院。詰パラの発行も一 時休刊となった。このため、中編(曲詰『エ』)の奨励賞のみであった。 昭和53年度 (No37-40) 短編:上田吉一 長編:駒場和男『三十六人斬り』七條兼三 奨励賞:小西真人 鶴田主幹が長期入院から復帰。詰パラも通常の発行に戻る。上田作は11手 ながら文句のつけようのない傑作。駒場作は全駒無防備煙と言う不可能と 思われていた条件を実現した。一方、七條作は順列七種中合という夢の手 順を実現した。小西作は二回の飛生を含む巣ごもりの曲詰であった。 昭和54年度 (No41,42,43) 中編:新ヶ江幸弘 長編:柳田明『稲村ヶ崎』山崎隆『赤兎馬』 新ヶ江作は使用駒5枚から四銀詰という奇跡的な作品。柳田作は濃密な手 順を盤面半分に擬縮した煙詰でと金がわずかに四枚。山崎作は複雑な桂香 合手順を1サイクルとし、それを馬鋸と複合させた五百手越えの超大作で あった。 昭和55年度 (No44,45,46) 短編:橋本樹 中編:添川公司 長編:橋本哲 橋本樹作は切れ味ある手順で簡素な好形。添川作は4香連合を逃れ順に含 む遠角の傑作。橋本哲作は遠角、持駒変換、金鋸を複合した複雑な構成の 長編であった。 昭和56年度 (No47-52) 短編:小泉潔 中編:飯田繁和 若島正 長編:山本昭一『メガロポリス』 長編:伊藤正 『月蝕』 深井一伸『七対子』 詰将棋パラダイスが通巻三百号を迎え、記念事業として、「三百人一局集」を 臨時創刊する。この年は古希記念増賞(鶴田主幹の70歳のお祝いの意)とし て、計6作が受賞している。 小泉作は7手ながら変化まで隙のない好短編。飯田作は飛不成4回で手順 構成の優れた作品。若島作は曲詰『イ』(伊藤果五段の昇段記念作)。この 字形の中で最高傑作とされる作品。山本作は持駒変換と連取りの組み合わ せで初めて五百手を超えた大作。伊藤作は縦型密集小駒煙という奇跡的作 品。深井作は驚異のダブル七種合を実現した。 昭和57年度 (No53,54,55) 奨励賞:有吉弘敏 山本民雄 長編:山本昭一『メタ新世界』 この年の詰棋界は歴代詰将棋の最長手数を更新した山本昭一『メタ新世界』 941手の話題で持ちきりとなった。看寿賞の投票でも満票を得た。 短編、中編ともに例年なら受賞しても不思議ではない作品であったが、奨 励賞にとどまっている。有吉作は持駒が大駒4枚ながら、切れ味の良い短 編。山本作は新しい意味付けの中合を表現し、不思議な攻防の手順を巧妙 にまとめた中編であった。山本作は前年の受賞作の発展形といえる作品で 二枚の持駒を変換する『デュアル変換』を初めて、実現した。 昭和58年度 (No56-60) 短編:浦野真彦 赤羽守 中編:伊藤正 長編:添川公司『妖精』 長編:伊藤正『天女』 この年は大豊作で五作もの作品が選ばれている。浦野氏は創作当時は奨励 会員であったが、秋に四段昇段を決めている。浦野作は好形好作の見本の ような作品。詰パラの表紙を飾り好評を得た。赤羽作は七手ながら驚異の 詰上がりでこの年の話題をさらった。中編は初形と詰上がりの違いが突き 歩のみというマジックを見るような作品。詰マニア達の評価が未だに高い 作品である。添川作は煙詰に初めて、往復の馬鋸を組み入れて煙詰の最長 手数を記録した。伊藤作は二重の伏線と華麗な趣向手順をミックスした煙 詰であった。 昭和59年度 (No61,62) 中編:山本民雄 長編:添川公司『帰去来』 山本作は新鮮な意味付けの龍ソッポを三回行う作品。添川作は究極の条件 作といえる双玉無防備煙詰であった。 昭和60年度 (No63-66) 短編:愛上夫 中編:山本民雄 長編:橋本孝治『イオニゼーション』 長編:藤本和 愛上夫は森長宏明氏のペンネーム。詰棋めいとから初めての受賞であった。 山本作は膨大な変化、紛れが多岐にわたる打歩もの。橋本作は従来の詰将 棋の構成を超えた全く新しい機構を持った画期的な作品であった。藤本氏 は簡素形からの七種合47手と順列七種合煙詰 139手の二作があがったが、 前者が受賞した。 昭和61年度 (No67,68,69) 短編:柳原夕士 中編:若島正 長編:橋本孝治『ミクロコスモス』 詰将棋パラダイスが新しく、柳原編集長に引き継がれた。この年の話題は 詰将棋の最長手数を五百手以上も更新した『ミクロコスモス』。その手数 は1519手(のちに1525手に改作。)であった。本作は未だ最長手数の記録を 保ち、詰将棋史の頂点に燦然と輝く金字塔である。 短編は柳原編集長の受賞。同一の金が二度も移動合する離れ業を盛り込ん だ。若島作は簡素な初形に意表の開王手を取り入れた作品であった。 昭和62年度 (No70,71,72) 詰パラ前編集主幹鶴田諸兄氏が胆のう癌のため死去。享年75歳。 戦後の詰将棋界を育ててきた最大の功労者であった。 この年の話題は中井広恵女流名人の名前を一局の詰将棋に折り込んだ 三段曲詰『ヒロエ』であった。報知新聞紙上に最初は発表された。 将棋雑誌以外からは初めての受賞であった。 若島正氏作は七種合を盤面10枚にまとめた作品で、連続の受賞。 相馬康幸氏の『迷路』は作者の個性を存分に発揮したパズルのような 龍追い作品であった。 昭和63年度 (No73,74,75) 短編:鶴田康夫 中編:若島正 長編:赤羽守『妻籠宿』 柳原編集長の方針によりこの年から対象を詰パラに限るという改革が行わ れた。賛否両論あったが、この制度は三年間続いた。 鶴田作はソッポ龍に金中合の強烈な出だしの作品。若島作は無防備玉のミ ニ煙詰。赤羽作は煙詰。赤羽作は受賞決定後、不詰順が見つかり、作者も 辞退したが、修正図をもって受賞となった。 平成元年度 (No76,77,78) 短編:行き詰まり『新たなる殺意』中編:山田康平『セブン・センシズ』 長編:橋本孝治 六月に詰パラが通巻400号を迎え、詰将棋全国大会が五月に開催される。 以後、毎年、各地で開催されるようになった。 行き詰まり作(塩見倫生のペンネーム)は3手詰!ながら、五割もの誤解者 を出し、詰将棋の歴史に残る一作となった。山田作は使用駒が一揃いの七 種煙。橋本作は自陣成駒のない無防備煙詰であった。 平成2年度 (No79,80,81) 短編:山形達也 中編:富樫昌利 長編:馬詰恒司『修羅王』 この年の全国大会は千駄ヶ谷、将棋会館で五月に開催された。 山形作は凝りに凝った邪魔駒消去の作品。富樫作は中合をテーマに密度の 高い手順を実現した。馬詰作は無防備煙詰に伏線的な二歩禁回避を取り入 れた。 平成3年度 (No82,83) 前年度の東京大会の提案を受け入れて全日本詰将棋連盟の組織が再結成され、 それにあわせて、看寿賞の選考方法も変更された。 1.対象はその年に発表された全誌(紙)のすべての作品とする。 2.手数区分は不変で、 短編賞を19手までから17手までに、 中編賞を19手から49手までに、 長編賞を41手以上から51手以上に変更した。 そのほかに、特別賞(曲詰・条件作・記録作など特殊な分野)を新設する。 3.選考方法は一般からの投票で候補作を絞り、選考委員で決定する。 4.選考委員は全詰連幹事、詰パラ同人、詰パラ担当者、詰パラ年間優秀 解答者とする。 5.各々、各部門持ち点6点で投票し、集計する。その集計結果で看寿賞 を決定する。 その後、若干の変更もあったが、平成13年度までこの制度は続いた。 看寿賞委員長に森田正司氏が就任し、看寿賞の運営を行う事となった。 奨励賞は水上仁氏作(柳原裕司氏の後の詰パラ編集長)の9手詰に与え られた。大橋健司氏作『迷宮の王』は本格的な謎解き。堂々巡りのよう な手順の末、微妙に局面を打開していく作品で絶賛された。 平成4年度 (No84,85) 中編:相馬慎一 長編:添川公司『大航海』 看寿賞の選考方法に若干の変更があった。 ・持ち点6点から5点に。 ・特別部門は特に設けずに特別賞に推す時は注記する事とした。 相馬作は中合の駒が移動合するという手順を簡素な初形で表現した。添川 作は彼の数ある煙詰の集大成といえる作品。還元玉七種合煙詰という難条 件を伏線入りの濃密な手順で表現した。 平成5年度 (No86-89) 短編:若島正 中編:相馬慎一 長編:川原泰之『SWINGU』 特別賞:小沢正広『夏の陣』 若島作はA級順位戦で首位となった双玉の作品。相馬作は実戦好形作。川 原作は二枚飛車の振り子運動と馬鋸を組み合わせて四百手越を達成した。 小沢作は無仕掛けの陣形図式。複雑で難解な作品であった。 平成6年度 (No90,91,92) 短編:宗岡博之『 MOTOR DRIVE 』 中編:大橋健司『ドラゴン・ パラドックス』 特別賞:浦野真彦『春時雨』 詰パラの発行人として水上氏が就任。編集の柳原氏との二人体制となる。 室岡作は意外性のある手順で、密度の濃い短編。大橋作は解答者の心理を 計算し尽くした上で本格的な謎解きを提示した作品。特別賞は馬鋸入りの 煙詰。煙詰コンクールで1位となった作品。 平成7年度 (No93,94,95) 短編:小林敏樹 中編:若島正 長編:堀内真『未知との遭遇』 小林作は詰パラのA級順位戦で圧倒的な支持を集め首位となった作品。若 島氏は7回目となる受賞であった。本作は巧妙な受け手順を表現した。堀 内作は終始、緊張感のある手順が続き、揺るむところのない、煙詰とは思 えない構成の作品。 平成8年度 (No96,97,98) 短編:仲西哲男 中編:波崎黒生『ボディガード』 長編:馬詰恒司・摩利支天合作『FAIRWAY』 仲西作はA級順位戦で首位となった意外性のある作品。波崎作は玉方銀不 成をテーマとしたパズルのような作品。馬詰・摩利作はと金の上下追い手 順と馬鋸を組み合わせて六百手越を実現した。 平成9年度 (No99-103) 短編:小林敏樹 中編:斉藤吉雄『くもの糸』 長編:新ヶ江幸弘『伏龍』 梅田亮『逡巡の恋』 特別賞:谷川浩司 小林作はA級順位戦で首位となった作品。斉藤作は打歩詰の攻防を虚々実 々の手順で表現した。新ヶ江作はいままでの最短となる79手で全駒煙詰を 実現した異色の作品。梅田作は新構想の持駒変換を実現した龍追いであっ た。谷川作は盤面歩図式に持駒金銀8枚しかも、詰手順が趣向的という珍 品であった。 平成10年度 (No104-108) 平成10年度は5作品が選ばれ、短編はベテラン実力者の谷口均氏が初受賞。 中編では詰パラ半期賞を4作も受賞した充実の原亜津夫氏。 長編では信太弘氏の二百手越え龍追いと橋本孝治氏の七種合の2作品が受賞。 さらに特別賞には内藤國雄九段のライフワークともいえる「詰方実戦初形」 73手詰が選ばれて大きな話題となった。 平成11年度 (No109-114) 平成11年度は前年の5作をさらに上回る6作品が受賞。これは昭和56年度 に並ぶ最多タイ記録となった。 小林敏樹氏作はB級順位戦で首位となった作品で図巧第62番の現代版。 山田修司氏作は角、銀の入替パズルを表現した。相馬康幸氏作は盤面6枚 の自然な実戦形から遠香を実現し、手順も軽快な作品。 この年の長編は大豊作で本来なら選ばれても不思議ではない作品が何作も 選外となった。伊藤正氏作『馬×馬』は馬鋸の合間に馬鋸をする趣向作。 田島秀男氏作『乱』451手詰は出題時に正解者ゼロを記録して詰将棋史 上でも屈指の難解作と言われた。 また特別賞には加藤徹氏の大道棋銀問題の超大作97手詰が選ばれたが、 大道棋が看寿賞に選ばれるのは、おそらく空前にして絶後と思われる。 平成12年度 (No115-118) 平成12年度は全部で4作品が受賞。短編は伊田勇一氏の宗看のような重厚な 手順を実現した難解力作。中編は発表時に誤って余詰と解説された波崎黒生 氏の馬鋸の構想作品『ルートファインディング』が難を乗り越えて受賞。 長編は近藤真一氏の3種遠打と桂中合入りの煙詰。また特別賞には安達康二 氏の市松模様の曲詰『夢の車輪』が選ばれた。 平成13年度 (No119-122) 平成13年度は女流棋士高橋和氏の15手詰が短編賞に選ばれて将棋界全体 でも大きな話題となった。中編は江口伸治氏の巧緻な飛角図式29手詰。 長編は近藤真一氏の貧乏図式の煙詰143手詰と田島秀男氏の馬鋸再帰連 取りの大作『まだら』569手詰の2作が選ばれた。 平成14年度 (No123-130) 平成14年度は大豊作で、短編には原亜津夫氏の金中合を二度動かす9手詰。 中編は角建逸氏十八番の合駒作品『風鈴』。 長編は添川公司氏の超大作『明日香』703手詰と田島秀男氏の『夫婦馬』 423手詰の2作が受賞。さらに森田銀杏氏の『トランプ詰』が4作セット で特別賞に選ばれた。 この年から看寿賞選考の改革があり、7名の委員による第1次投票〜選考討 議〜第2次投票という方法に変更された。 平成15年度 (No131-134) 平成15年度は4作品が選ばれた。短編は斎藤夏雄氏の馬のスイッチバック 二回の17手詰が選ばれたが、将棋世界誌からの初受賞。 中編は相馬康幸氏の歴史に残る簡素形無仕掛図式『デフォルト』35手詰。 長編は添川公司氏の馬追い無防備煙詰『早春譜』139手詰。 また岡村孝雄氏の裸玉『驚愕の曠野』55手詰(その後5一玉59手詰に 改良された)が特別賞に選ばれた。 平成16年度 (No135,136) 平成16年度は短編が該当なし。中編は当時奨励会二段だった船江恒平氏の中合 3回の力作が選ばれ、長編は高橋恭嗣氏の正解者ゼロの馬鋸巨編『木星の旅』 411手詰が選ばれた。またこの年の2月に第1回詰将棋解答選手権が開催さ れ参加者は28名で優勝者は宮田敦史四段(段位は当時)だった。 平成17年度 (No137-139) 平成17年度はそれぞれ各分野にとび抜けた作品があり、短・中・長編で各1作 の受賞作が選ばれた。短編は合駒の銀が一回転する高坂研氏の15手詰。中編は 有吉澄男氏の移動合3回を含む高度な内容の「一」の字曲詰。長編はまたして も田島秀男氏で、合駒で取った4香を並べては消去するという趣向を5回も繰 り返す新機軸の267手詰が選ばれた。 平成18年度 (No140,141) 平成18年度の短編は角が大活躍する中村雅哉氏の11手詰。中編は該当なし。 何といってもこの年の話題は史上2位の長手数となる添川公司氏1205手詰 『新桃花源』で、第69番橋本孝治氏『ミクロコスモス』以来の千手越えと 「1/2手馬鋸」という新構想が圧倒的に支持されて長編賞に選ばれた。 平成19年度 (No142,143) 平成19年度は、短編に重量感あふれる難解な15手詰の武紀之氏作。 また中編は昨年に続いて該当作なし。 長編は馬鋸に縦横2つの龍鋸を絡めた添川公司氏の『阿修羅』365手詰となった。 平成20年度 (No144-146) 平成20年度は、短編部門は該当作なし。中編は選考委員による1回目の投票で は決定せず。追加投票の結果、玉方応手10回が全て同龍という中村雅哉氏の 『奔龍』21手詰が受賞となった。長編では添川公司氏の1/2手持駒変換の 龍追い「阿吽」647手詰と、2枚馬で終始追跡する安武翔太氏の煙詰の2作 が受賞となった。 なおこの年の6月号で月刊近代将棋が休刊となった。1950年創刊以来60年 近く発行され続けて数多くの詰将棋を掲載してきた雑誌の休刊に、多くの詰将棋 ファンが落胆した。 平成21年度 (No147-149) 平成21年度は、短編賞に飛車最遠移動の開王手を簡潔に表現した谷口均氏の7手詰。 また中編は詰将棋解答選手権チャンピオン戦で出題された若島正氏の『ルービック キューブ』39手詰が受賞。 解答選手権の出題作から看寿賞受賞作が出るのは初めてのこと。 長編は1サイクル6種合の持駒変換を実現した近藤真一氏の439手詰が受賞となった。 平成22年度 (No150,151) 平成22年度は、短編と中編では残念ながら決定打が無く該当なしとなった。 しかし長編賞は馬飛追い新趣向の井上徹也氏『シンメトリー』501手詰と、 初形全駒から四桂詰になる添川公司氏『奇兵隊』123手詰の2作が選ばれた。 平成23年度 (No152-155) 平成23年度は、短編は谷口源一氏の実戦型15手詰。 中編では決定打がなく残念ながら2年続けての該当なし。 しかし長編は豊作で、4種類の不利応手を1局に盛り込んだ若島正氏の63手詰、 下段香に対して歩桂桂銀銀の5連合駒を実現した真島隆志氏の59手詰、 複雑極まりない飛角の動きを見せる連取り趣向の井上徹也氏作『特異点』211手詰 の3作品が選ばれた。井上徹也氏は2年連続の長編賞受賞となった。 平成24年度 (No156-159) 平成24年度は、短編が該当なし。中編には廣瀬崇幹氏の守備駒2枚を翻弄する25手詰と、 芹田修氏の玉方応手オール同馬の19手詰の2作。 また長編では回転型龍追い+多重連取りの井上徹也氏作『涛龍(とうりゅう)』849手詰。 さらに特別賞に岡村孝雄氏の4×9=36枚の密集形煙詰『涓滴(けんてき)』107手詰が選ばれ、 計4作品の受賞となった。井上徹也氏はこれで3年連続の長編賞受賞となった。 平成25年度 (No160-164) 平成25年度は、短編が解答選手権出題作の田島秀男氏の桂4香4打ち捨ての17手詰で、 解答選手権からの受賞は平成21年度若島正氏『ルービックキューブ』39手詰に次ぐ2作目。 短編ではもう1作中村雅哉氏の銀時間差中合の15手詰。中編は久保紀貴氏の連続打診中合 『位置エネルギー』33手詰。さらに長編では田島秀男氏の角銀入替の複式馬鋸579手詰と、 添川公司氏の飛打飛合+香ハガシ『幻想飛行』351手詰の2作が選ばれて、計5作の受賞と なった。 平成26年度 (No165-170) 平成26年度は大豊作で、短編は焦点の中合を動かす宮原航氏11手詰と、玉を空中捕獲する真 島隆志氏11手詰の2作。また中編には新機軸の5連続歩合の井上徹也氏43手詰と、不利合 駒を趣向的に繰り返す相馬慎一氏45手詰の2作。さらに長編では龍の王手に金合を繰り返し て周回する糟谷祐介氏の『百千帰』403手詰と、金合趣向入り煙詰の添川公司氏『枯野行』 147手詰の2作が選ばれて計6作の大量受賞となった。 なお糟谷祐介氏『百千帰』はインターネット発表作から史上初の受賞となった。 平成27年度 (No171-176) 平成27年度は特に長編部門が大豊作で3作受賞となり、前年に続いて計6作となった。 短編は簡素形からコクのある手順を展開する片山知氏15手詰。 また中編は四桂連打から4連成り捨ての山路大輔氏23手詰。 そして長編では理論的最短手数の煙詰を実現した岡村孝雄氏『来たるべきもの』73手詰、 4桂連合を4回繰り返す香はがし趣向の田島秀男氏137手詰、 金知恵の輪に2枚角移動とはがしを組み入れた田島秀男氏519手詰の3作。 さらに特別賞には時計回りに金銀を8連続で打ち捨てる広瀬稔氏17手詰が選ばれた。 平成28年度 (No177-181) 平成28年度は5作品が受賞した。短編は簡素な形から中合を動かし両王手で詰め上げた上谷直希 氏の7手詰。中編は相馬慎一氏の解答選手権で正解者ゼロの出題作39手詰と、山路大輔氏の4 連続銀中合趣向の47手詰。長編は馬屋原剛氏の大駒2種の双方向持駒変換を取り入れた『手裏 剣』143手詰と、久保紀貴氏の最小公倍数原理の第一号局『LCM』101手詰が選ばれた。 平成29年度 (No182-184) 平成29年度は3作品が受賞した。短編は序奏の玉方連続銀不成から5六飛の捨合、馬と龍を捨てる収束と 高密度の武島広秋氏の17手詰と、2枚の龍捨てによって狙いの香打ちを実現し、初手と9手目に 同じ場所への香捨てを織り込んだ上谷直希氏の11手詰。長編は飛打角合・角打飛合を繰り返しながら 玉方の成銀・成桂・成香を回転させ、さらに龍鋸も取り入れた田島秀男氏の373手詰が選ばれた。 平成30年度 (No185-189) 平成30年度は5作品が受賞した。短編は玉方桂の4段跳ねに序の伏線を絡めた鈴川優希氏 17手詰と、重厚な手順で龍を打った角の裏へ移動する有吉弘敏氏11手詰の2作。 中編は角の打診と初手の金銀選択で魅せる相馬慎一氏37手詰と、序盤で捨てた2枚の角が 同じ位置で復活する若島正氏27手詰の2作。 長編は見せ場豊富の七種合煙詰である山路大輔氏『ファイナルカウントダウン』159手詰が 選ばれた。 令和元年度 (No190-194) 令和元年度は5作品が受賞した。短編は山路大輔氏の2作、玉方1七銀が九段目まで動き、 1七成銀となって詰め上がる13手詰と、3回の合駒が動く15手詰。 中編は飛車移動と捨駒で局面を少しずつ変化させる小林尚樹氏31手詰。 長編は飛車移動と馬鋸で玉方の成桂とと金の位置を入れ替えながら歩を剥がしていく 田島秀男氏743手詰。 特別賞には玉方実戦初形の20枚が全て動き、100手以上の攻防が繰り広げられる 添川公司氏『ガイア』119手詰が選ばれた。 令和2年度 (No195-198) 令和2年度は4作品が受賞した。短編は馬の移動合が印象的な市島啓樹氏15手詰。 中編はと金ベルトと馬引きで玉方桂の4段跳ねを実現した宮原航氏『跳ね玉兎』25手詰。 長編は七種合煙に終盤で角の移動合も盛り込んだ山路大輔氏『Curiosity』151手詰と、 大駒不使用で詰上り4枚の都煙を実現した岡村孝雄氏『アツクナレ』123手詰が選ばれた。 令和3年度 (No199-203) 令和3年度は5作品が受賞した。短編は玉方の2枚の銀が動き続ける上谷直希氏11手詰。 中編は2枚馬の利きを重複させる狙いで作意の歩合と紛れの歩合の構想を実現させた 相馬慎一氏33手詰と、右下に2枚の角を据えて飛車の往復で空き王手を繰り返す 渡辺直史氏33手詰の2作。 長編は煙詰で序盤に打った銀と香が後で働き中合が発生する岸本裕真氏『三鈷峰』 155手詰。 特別賞には玉方で7種+成駒6種の13種移動合を実現した中村宜幹氏『国士無双』 63手詰が選ばれた。 令和4年度 (No204-210) 令和4年度は7作品が受賞した。短編は一段目の玉方馬が九段目まで動いて戻る 相馬慎一氏11手詰と、打歩詰を狙う香合と桂合を動かす馬方四季氏『流れ星の作り方』 9手詰の2作。 中編は玉方で移動合の桂馬3枚を取り、3枚とも置いてから跳ねて詰め上がる 岩村凛太朗氏43手詰、七種中合(全ての合駒が玉から1間以上離れている)を実現した 山葉桂氏43手詰、歩〜飛の攻方順列七種合を実現した岩村凛太朗氏『攻野に並ぶ七人』 43手詰の3作。 長編は複合馬鋸で取った歩が復活して再度取る井上徹也・馬屋原剛氏合作211手詰と、 龍回転のワンサイクルで七種合が登場し、3回繰り返して史上初のトリプル七種合を 実現した岸本裕真氏『幻日環』173手詰の2作が選ばれた。 令和5年度 (No211-216) 令和5年度は6作品が受賞した。短編は銀の往復と持駒香4枚で玉方龍が鋸状に動く 原亜津夫氏17手詰。 中編は空き王手に対して5連続逆王手合が飛び出す岩村凛太朗氏『バーフバリ』43手詰と、 玉方馬が打歩詰誘致のため移動し、その後移動中合して消える馬方四季氏39手詰の2作。 長編は馬の王手に対する歩合と移動合の繰り返しに歩頭への馬捨てを盛り込んだ齋藤光寿氏 77手詰、再帰連取りに加えて角合や馬鋸も登場する井上徹也氏『静かの海』561手詰、 連取り趣向に攻方歩の発生・消去を絡めた井上徹也氏『テンペスト』317手詰の3作が 選ばれた。 |
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