◇ 森田銀杏作 組曲:トランプ詰 解説

 トランプ詰は以前、田中至氏が発表されたが、一部に不完全作があった。4
作とも完全な形での発表は森田氏が初めてである。森田氏のトランプ詰組曲は
手数を33手とし、詰上がり玉の位置も中央付近にするという組局としての統
一感を出している。森田氏は盤面曲詰を含めて、曲詰を何作か作られている。
氏自身は『曲詰で一番大事な点は詰上がりの形である。』と発言されている。
詰上がりに不備がない事が大前提で、その上で手順を評価すべきであるという
立場であった。本組局も曲詰に対しての氏の姿勢が良く表れた作品群となって
いる。

【詰上がり一覧】





No127 森田銀杏『トランプ詰:スペード』近将2002年7月


37角、45玉、36金、54玉、64と、同桂、63飛成、同玉、64銀、54玉、
55銀、53玉、64銀、54玉、63銀不成、65玉、57桂、同金、75飛、同玉、
85馬、65玉、77桂、56玉、57金、同玉、58金、56玉、47銀、同香成、
57歩、同成香、46金、まで33手

初形の成桂が気になる。普通に桂馬だと47銀とし55玉、56銀、54玉、36馬、
45香打、64と、同桂、55銀、以下27手の早詰が生じる。成桂はその余詰を防止
している。
37角、45玉、36金、54玉、64と、同桂、63飛成、(A図)
     A図


37角以下上部に追い込む。63飛成と捨駒をする。そして、64銀、作意は54玉と
するが、62玉が気になる変化だ。それは73歩成、51玉、62と、同玉、63銀成、
51玉、71飛成、61香、73角成、41玉、61龍以下。として詰む。34桂や25香の配
置が効いてくる。
同玉、64銀、54玉、55銀、53玉、64銀、54玉、(B図)
     B図


銀を往復し5筋の歩を消去する。この局面ではその意味は解りづらいが、収束
での57歩を二歩としない為の間接消去である。本局での狙いの構想である。
曲詰では二歩禁回避は珍しい構想である。
63銀不成、65玉、57桂、同金、75飛、(C図)
     C図


63銀不成を同玉とすれば73角成と馬を作り早く詰む。65玉に桂、飛車と続け様
気持ちよく捨てる。
同玉、85馬、65玉、77桂、56玉、57金、同玉、58金、56玉、(D図)
     D図


85馬と飛び出せば、玉の行ける範囲は限られおり、手が渋滞する事はない。
56玉で打歩の局面になるが、成香を呼び込んでの打歩打開は容易だろう。
47銀、同香成、57歩、同成香、46金、まで
    詰上がり


玉がほぼ一周し詰上がった。氏は盤面上段から中央へ展開する流動的な曲詰を
嫌っていた。曲詰は詰上がりを構成していく駒の枠の中で手順を展開すべきで
ある、との持論であった。



No128 森田銀杏『トランプ詰:ハート』近将2002年7月


45と、同銀、25金、同金、44銀、同玉、45銀、53玉、33飛成、同銀、
54歩、64玉、73角、65玉、74銀、75玉、76歩、74玉、84金、65玉、
66歩、同玉、67歩、65玉、56銀、54玉、45銀、53玉、58龍、同桂成、
54銀、同玉、43角成、まで33手

 森田さんは本作が4作の中で一番気に入っていたようである。ハートは結婚
祝賀詰などで何作か作られている。大小いろいろ詰上がりはあるが、本作のよ
うな大型の詰上がりは珍しい。また、他の3作はなんとなく初形から詰上がり
が予測できるが、本作は密集した形からの詰上がりなので意外性がある。
45と、同銀、25金、(A図)
     A図


25金が作者自慢の伏線手である。この意味は収束に行かないと判明しない。
ここで25へ金を呼ぶのは金を質駒化し、のちの変化を詰める為である。しかし、
変化は増えるし、この時点でははっきりしないのでやりづらい。本作では
曲詰というヒントがあったので、解答者はそれを頼りに25金の妙手を発見した
であろう。
同金、(イ)44銀、同玉、45銀、(ロ)53玉、33飛成、同銀、54歩、
64玉、73角、(ハ)65玉、(B図)
(イ)44玉は45銀、53玉、33飛成、同銀、62銀、同玉、71角、51玉、52歩、以下。
(ロ)55玉は54と、65玉、83角、75玉、76歩、同と、65角成、同玉、66銀、
  74玉、76龍、84玉、75龍、95玉、86金、94玉、61角成、93玉、73龍、
  92玉、83馬、81玉、82馬、まで31手
(ハ)75玉は76歩、同と、66金、74玉、76龍、83玉、84銀、92玉、96龍、
  81玉、91龍、72玉、61角成まで
     B図


45銀以下途中に変化はあるが、5筋より左への展開に移る。
74銀、75玉、76歩、74玉、84金、65玉、66歩、同玉、67歩、(ニ)65玉、(C図)
(ニ)57玉、46角成、同と、49桂、47玉、25角、36歩、38金まで
  この変化で25へ金を移動させた効果がはっきりする。
     C図


固まった駒をほぐしながら、龍の利きを後押しに手を進めていく。65玉で57玉
とする変化で序の伏線手の効果が判る。ほぼハートの形は完成した。
56銀、54玉、45銀、53玉、58龍、(D図)
     D図


銀を往復し54歩の邪魔駒を消す。次は58龍!!と捨てさる。
同桂成、54銀、同玉、43角成、まで
  詰上がり


香筋が通れば、銀も捨てる。43角成と詰上がりは空中で射止めた感じである。



No129 森田銀杏『トランプ詰:ダイヤ』近将2002年7月


47歩、55玉、65金、同玉、57桂、54玉、45馬、53玉、65桂、64玉、
74と、65玉、75と、同玉、86銀、65玉、74銀、64玉、75銀、同玉、
85金、66玉、77角、同玉、78金、同銀成、同飛、66玉、67銀、57玉、
58飛、47玉、36馬、まで33手

 ダイヤは菱形として江戸時代の昔から創作されている。最大のものは大菱、
最小のものはピンポン(54,45,65,56)として発表されている。本作は中菱と
森田さんはされている。
47歩、(イ)55玉、65金、(ロ)同玉、57桂、(A図)
(イ)35玉、24銀、44玉、26角、55玉、58飛、64玉、74と、65玉、56馬、
  54玉、55馬まで
(ロ)44玉、77角、35玉、57馬、45玉、37桂まで
     A図


本作の手順は4作の中では最も軽い。まず、歩突きで始まる。そして、1回目
の桂跳ねである。
54玉、45馬、53玉、65桂、(B図)
     B図


続いて、2回目の桂跳ねである。易しいながら軽快な狙いである。
64玉、74と、65玉、75と、同玉、86銀、65玉、74銀、64玉、75銀、(C図)
     C図


銀を奪い、86に据えるが、すぐに75へ捨てる。
同玉、85金、66玉、77角、(D図)
     D図


右に左に睨みを利かし変化を詰ましてきた角もここでお役ご免である。
同玉、78金、同銀成、同飛、66玉、67銀、57玉、58飛、47玉、36馬、まで
  詰上がり


77角を決断すれば、以下は自然な流れで詰み上がる。47玉とほぼ初形の位置へ
戻ってきた。初形の玉付近で詰めるのは氏の曲詰に対するこだわりである。



No130 森田銀杏『トランプ詰:クラブ』近将2002年7月


57龍、65玉、66歩、64玉、97馬、86桂、同馬、同歩、75銀、53玉、
52龍、44玉、45銀打、同金、同銀、同玉、37桂、同銀成、35金、同玉、
37龍、45玉、36銀、44玉、35銀、45玉、36龍、同玉、26金、45玉、
37桂、56玉、57金、まで33手

 盤面81格という制約の中でクラブの難しい図形を見事に描いている。この詰
上がりの形は勿論、初めての試みであり、多くの方から賞賛をあびた。
57龍、65玉、66歩、(イ)64玉、97馬、(ロ)86桂、(A図)
(イ)同桂は87馬、74玉、83龍、64玉、66龍、53玉、55龍、62玉、52龍以下。
(ロ)86香は同馬、同歩、75銀、53玉、52龍、44玉、45銀打、同金、同銀、同玉、
  37桂、34玉、32龍、33銀、35香、同銀、45金、24玉、35金、同玉、33龍、
  34歩、26銀、36玉、34龍迄
     A図


初手に57金の紛れがあるが、作意は龍で行く。97馬で合駒を訊くと桂と判明す
る。香合は作意同様とはいえ、かなり長い変化である。
同馬、同歩、75銀、(ハ)53玉、(B図)
(ハ)同玉は55龍、84玉、76桂、74玉、65龍、73玉、85桂まで
     B図


合駒を奪い、続いて狙いの一手。75銀!が出る。取れない事はすぐに判る
が、囲いからわざわざ脱出させるような着手で手触りは抜群だ。
52龍、44玉、45銀打、同金、同銀、同玉、(C図)
     C図


玉は5筋を渡り4筋に移る。舞台は4筋での折衝に変わる。
37桂、同銀成、35金、同玉、37龍、45玉、(D図)
     D図


連続の捨駒で銀を奪う。二枚の龍の力で1,2筋には行けない。
36銀、44玉、35銀、45玉、36龍、(E図)
     E図


45玉と戻ってから、36銀を打つ。すると、いままで働いていた龍が邪魔駒に
なっているのだ。桂の打ち場所を作るために消去する。
同玉、26金、45玉、37桂、56玉、57金、まで
  詰上がり


還元玉56玉で詰上がりとなった。最終、詰上がり玉の位置も一番収まりが良い
であろう。

森田さんに看寿賞受賞の報をお知らせできなかった事は残念でした。以前、
詰将棋ML上で森田さんにトランプ詰について伺った事がありますので、以下
に紹介します。

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MLのみなさん、森田さん、こんにちは。近藤です。

森田さんのトランプ詰の感想を書きます。

結果発表のページが後1ページは欲しいです。栗山さんの文章も
短くするためにかなり苦労しているように感じました。

スペードは元々は20手台の作品だったのでしょうか。37角の初手は少し
強引な逆算の感じ。63飛成としてからの濃密なやりとりは流石です。

ハートは数あるハートの中でも最高傑作。塚田賞は決まりでしょう。
手順はもちろん、緊張感のある詰め上がりがいい。

ダイヤはもともと33手の素材だったのでしょうか。手順は他の3作と
比較すれば軽いのですが、自然な流れで巧いものです。
本作だけが詰め上がり玉の位置が五筋ではありません。
しかし、どうやらこの詰め上がりでは玉を五筋にするのは無理のようです。

クラブは詰め上がりにまず拍手。初形からも想像しずらい詰め上がりです。
還元玉も花を添えています。馬で桂合を稼ぎ、75銀とするところは巧妙。

曲詰、逆算は森田さんの専門外といままで思っていました。
年賀詰もこれからは裏表セットでお願いします。(^^)

近藤 真一 

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こんさんさん、こんにちは。

>森田さんのトランプ詰の感想を書きます。

目を掛けて下さって有り難うございます。


>結果発表のページが後1ページは欲しいです。栗山さんの文章も
>短くするためにかなり苦労しているように感じました。

私は「最低3頁は必要」と主張したのですが、ダメでした(それ
を補う意味で、詰研会報に洩れた短評を載せたのです)。

でも、近将に「力試し」として長編を復活させた功績(?)はあ
ると思います。


>スペードは元々は20手台の作品だったのでしょうか。37角の初手は少し
>強引な逆算の感じ。63飛成としてからの濃密なやりとりは流石です。

原図から31手です。私は「炙り出し作法」の一つとして、初形の
玉位置を詰め上り位置(or近く)にまで逆算するようにしていま
す。本作は(ご指摘の通り)そのために序盤に少し無理が生じた
ようです。


>ハートは数あるハートの中でも最高傑作。塚田賞は決まりでしょう。
>手順はもちろん、緊張感のある詰め上がりがいい。

伏線ものも好きな「炙り出し作法」の一つなのですが、練達解答
者には「15金が残る筈がない」と曲詰であること自体がヒントに
なってしまったようです(それでも、その意味が最後に判って褒
めてくれましたが…)。


>ダイヤはもともと33手の素材だったのでしょうか。手順は他の3作と
>比較すれば軽いのですが、自然な流れで巧いものです。
>本作だけが詰め上がり玉の位置が五筋ではありません。
>しかし、どうやらこの詰め上がりでは玉を五筋にするのは無理のようです。

52玉の詰め上りは不可能ではありませんが、無理ですね。
軽い手順に釣られて(?)14手目66玉…で同形に戻る変別誤解が
何人か出ました。図が現れて安心したのでしょうね。

詰上り形は4局とも始めてと思っていましたが、この「中菱」は
岡田敏作(近将 1979.2)にあると指摘されました(残念!)。


>クラブは詰め上がりにまず拍手。初形からも想像しずらい詰め上がりです。
>還元玉も花を添えています。馬で桂合を稼ぎ、75銀とするところは巧妙。

この詰上り形が自慢です。ところがこれを見付けたものの、手順
が成立せず、一番苦労しました。なのに、小川悦勇さんは本作が
TOPと言われます。初手57金の紛れが有力だからのようです。


>曲詰、逆算は森田さんの専門外といままで思っていました。
>年賀詰もこれからは裏表セットでお願いします。(^^)

いえいえ、若い頃は炙り出しからスタート。門脇さんや北原
さんの曲詰が目標でした。

02/08/04(日) 08:40 森田銀杏

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      【解説:近藤真一】

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