No126 添川公司 『明日香』近代将棋2002年12月


 添川氏はデビューした十代の頃から、天才と呼ばれてきた。その作品は煙、
曲詰、短編とジャンルを問わない。ありとあらゆる分野で秀作を発表している。
看寿賞候補に常に発表作はあがり、詰将棋界でもまれなオールマイティな作家
である。本作は700手を超える超長編だが、氏は以前にも767手の「桃花源」
を発表している。

本作の趣向は3個の部品から構成されている。
1.一筋での金と香による往復機構。
2.二枚馬を利用し、二枚の遮断駒:と金を移動させながらの馬鋸。
3.龍の王手で馬の往復を増やす機構。
これらの巧妙な機構とともに八十手を超える収束でこの長大な作品は成立して
いる。1.と2.のアイデアだけでは本作は三百手ほどの作品に収まっている
はずで、それが七百手まで伸びたのは添川氏の卓越した創作技術のたまもので
ある。

【解図】
解説の便宜上、次のようにまとめる。
『A1』玉を16から11まで移動させる手順。
15金、同玉、17香、16金、14金、同玉、16香、15金、13金、同玉、15香、14金、
12金、同玉、14香、13金、11金、同玉、13香不成、12金、
『A2』玉を11から17まで移動させる手順。
12香成、同玉、14香、13香、同香成、同玉、15香、14香、同香、同玉、
16香、15香、同香、同玉、17香、16香、同香、同玉、18香、17香、同香、同玉、
19香、18香、
『B1』玉を17から12まで移動させる手順。
16金、同玉、18香、17金、15金、同玉、17香、16金、14金、同玉、16香、
15金、13金、同玉、15香、14金、12金、同玉、14香、13金、
『B2』玉を12から17まで移動させる手順。
13香成、同玉、15香、14香、同香、同玉、16香、15香、同香、同玉、
17香、16香、同香、同玉、18香、17香、

【作意】
15金、同玉、17香、16金、14成香、同玉、16香、15香、13金、同玉、
15香、14金、12金、同玉、14香、13金、同香、同玉、19香、18香、
62馬、(A図)
     (A図)


一筋で往復する。合駒は限られており、香打には金か香しかない。原理は単純
であるが、うまい機構である。62馬に対して、と金を引くの変化は次の通り。
・44と引は16金、同玉、18香、17金、61馬、15玉、17香迄
62馬には飛車の利きのあると金で応じる。61馬にもこのと金で応じる。なお、
この馬は61と62のみ動ける。
44と寄、16金、同玉、18香、17金、61馬、34と、『A1』66馬、(B図)
     (B図)


11まで玉を移動させる。途中、61馬の王手で44とを移動させる。これで11玉に
馬で王手する事が可能となる。66馬の変化は次の通り。
・55桂は同馬、同と、12香成、同玉、15香、13香、同香成、同玉、14金、同玉、
  15歩、同玉、16金、同玉、34馬、25金、17歩、15玉、16香、同金、同歩、
  14玉、26桂、同香、24金迄
・44飛は12香成、同玉、14香、13香、34馬、同飛、11金迄
・44と寄は12香成、同玉、16香、13香、34馬、同と、11金迄
55とになるが、馬の応手にはこのと金で応対する。
55と、『A2』62馬、44と、『B1』67馬、(C図)
     (C図)


67馬と続けて馬鋸を行いたいのだが、それは34とが邪魔をしている。34とを動
かす為に17へ『A2』手順で玉を移動させる。34とが44に動いたら、今度は
『B1』手順で12へ玉を移動だ。ようやく、67馬が実現する。本作は馬の一
手事に手順が入る、いわゆる『一手馬鋸』になっていて超長手数を達成する大
きな要因となっている。
45と寄、『B2』61馬、34と、『A1』77馬、(D図)
     (D図)


77馬の後に馬鋸を続けるには龍が邪魔をしている。今度は龍を巡ってのやりと
りになる。
55と、『A2』62馬、44と、『B1』67馬、45と寄、『B2』61馬、34と、
『A1』66馬、(E図)
     (E図)


87龍とするために馬を66に移動させる。
55と、『A2』62馬、44と、87龍、(F図)
     (F図)


馬鋸の軌道を邪魔していた龍を87に移動した。87龍の変化57金が大変な変化
である。これは【別項1】を参照。
57銀成、『B1』67馬、(G図)
     (G図)


銀の利きで王手をした。同成銀とする変化も大変だ。【別項2】を参照。
45と寄、『B2』61馬、34と、『A1』77馬、55と、『A2』62馬、44と、
『B1』78馬、45と寄、『B2』61馬、34と、『A1』88馬、55と、(H図)
     (H図)


88歩を獲得した。今度は収束に備えて66まで戻る。
『A2』62馬、44と、『B1』78馬、45と寄、『B2』61馬、34と、
『A1』77馬、55と、『A2』62馬、44と、『B1』67馬、45と寄、
『B2』61馬、34と、『A1』66馬、55と、(I図)
     (I図)


66まで戻り57にあたりをつけた。これで収束に入る準備はできた。
『A2』57龍、(J図)
     (J図)


龍を切り、収束にはいる。収束には特に難しい手はないのだが、80手もかかる。
趣向に必要だった駒を徹底的に捌ききる。
同金、18香、同玉、29金、同玉、38銀打、39玉、57馬、28玉、29金、
17玉、18香、26玉、16金、35玉、47桂、45玉、67馬、56香、(K図)
     (K図)


馬が主役で手順を続ける。下段から徐々に上段へ玉は移動していく。
55と、同桂、56馬、54玉、43馬、63玉、55桂、62玉、61馬、53玉、
54歩、同飛、43馬、64玉、54馬、同玉、66桂、64玉、54飛、75玉、
74飛、同と、同馬、66玉、56馬、75玉、66銀、64玉、65銀、(L図)
     (L図)


趣向に必要だった中央の駒も捌かれ、上段での展開となる。
53玉、43と、62玉、63桂成、同玉、64香、73玉、74銀、82玉、
83銀成、71玉、72歩、81玉、82歩、同銀、同成銀、同玉、83銀、91玉、
92銀成、同金、同馬、(M図)
     (M図)


ここまでで691手。主役の馬もこれが最後である。
同玉、93歩、81玉、82歩、72玉、83金、71玉、81歩成、同玉、92歩成、71玉、
82と、まで703手
     詰上がり



【作者:受賞時コメント】
看寿賞ありがとうございます。
 昨年の夏、突然超長編が作りたくなり車井戸プロット等を色々いじっていましたが、試
行錯誤の結果の末、「往路香打香合・復路金打金合」と言う詰棋史上初?の非対称往復プロ
ットを発見。これに以前から温めていた「二重の遮断駒がある馬鋸」を組み合わせる事ので
きたのが本作です。
 創作上苦労したのは以下に87龍を成立させるかで、58金、48銀の配置に到達するのに一
ヶ月掛かりました。結果として二回目の馬鋸が捨駒となり迫力のある手順になったと思い
ます。
 また、収束も気に入っており、趣向に必要だった駒を再活用して綺麗に捌く事が出来、
満足のいく仕上がりになりました。


 【別項1】 57金の変化
    変化A図


この変化を詰ますのは大変である。一筋の玉を詰ますのは収束以外では難しい。
それは21の香の利きが絶大で小駒では手を出せないからだ。一筋で詰ます形
は角打ちしかないのである。XX角、2x合に金を打つ形である。現時点では
角は盤上の馬であり、この手段はないように思えるが、一旦角を玉方に渡し、
合駒で再獲得する事で実現する。変化も作意と同じように馬を67に移動する。
『B1』67馬、(変化B図)
    変化B図


67馬を自然に同金とする変化は次の通り。
13香成、同玉、17香、14香、同香、同玉、18香、15香、同香、同玉、
19香、16香、同香、同玉、19香、17香、17香、同玉、19香、18香、
67龍、(変化C図)
途中、香合で角合の余地があるが、すべて角を打つ変化で詰む。
変化C図:ここでの合駒は角しかない。角の合駒を得て、詰ます事が可能
となる。
    変化C図


・27角は同龍、同香成、35角、26飛、同角、同成香、15飛、16角、
  18香、同玉、16飛、同成香、29金、同玉、38角、以下。
・37角は同龍、同銀成、16金、同玉、18香、17金、43角、以下。
・47角は同龍、同歩成、35角、同と、同馬、26角、27金まで。

67馬を金で取れないのでやり過ごすが、以下の変化は次の通り。
45と寄、13香成、同玉、17香、14香、同香、同玉、18香、15香、同香、
同玉、19香、16香、同香、同玉、19香、17香、49馬!!(変化D図)
    変化D図


49馬とすれば、同銀しかない。あとは変化C図と同じで龍で金を獲得する。
玉方が馬を取ってくれなかったので、改めて捨てればいいわけである。
同銀、17香、同玉、19香、18香、57龍、以下、変化C図に準ずる。

ようやく、57金の変化は解決した。
↑F図に戻る。

 【別項2】同成銀の変化
この変化も【別項1】と同じような手段で詰む。
・同成銀以下は13香成、同玉、15香、14香、同香、同玉、16香、
  15香、同香、同玉、17香、16香、同香、同玉、19香、
  17香、同香、同玉、19香、18香、67龍、(変化E図)
    変化E図


ほぼ、変化C図と同じ局面になった。以下は変化C図の手順である。
↑G図に戻る。


      【解説:近藤真一】

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