No112 伊藤正『馬×馬』267手 詰将棋パラダイス1999年8月


33歩、同玉、44角成、42玉、52角成、32玉、54馬、23玉、『34馬、13玉、
35馬、23玉、45馬、13玉、46馬、23玉、56馬、13玉、57馬、23玉、
67馬、13玉、68馬、23玉、78馬、33玉、34馬、42玉、52馬、33玉、』
『』内をA手順とする。
55馬、32玉、65馬、23玉、『A手順』66馬、32玉、76馬、23玉、『A手順』
77馬、32玉、87馬、23玉、『A手順』88馬、32玉、98馬、23玉、『A手順』
88馬、32玉、87馬、23玉、『A手順』77馬、32玉、76馬、23玉、『A手順』
66馬、32玉、65馬、23玉、『A手順』55馬、32玉、54馬、23玉、34馬、13玉、
35馬、23玉、45馬、13玉、46馬、23玉、56馬、13玉、57馬、23玉、
67馬、13玉、68馬、23玉、78馬、33玉、34馬、42玉、43歩、51玉、
52歩、61玉、71香成、同玉、81歩成、61玉、71と、同玉、81龍、同成桂、
同銀成、61玉、53桂、同飛、71成銀、同玉、53馬、81玉、45馬、92玉、
82飛、同玉、73歩成、91玉、81馬、同玉、71馬、同玉、72と まで267手

本作は馬鋸の1サイクルの中に馬鋸を含む趣向作である。まず、10手進めた
A図を見て頂こう。左の馬(54)を馬A、右の馬(34)を馬Bとしよう。
      A図


これから馬Bによる馬鋸が始まる。詰め方としては23玉に馬Bで王手した時に
13玉ではなく33玉として欲しいのだ。33玉を強制するために79銀を馬Bで狙い
に行く。79銀を捕らえられるとまずいので、玉は33に逃げる。(図面B)
      B図


34馬、42玉、52馬、33玉と進める。(図面C)
      C図


次は馬Aの出番だ。55馬、32玉、65馬、23玉、(図面D)
      D図


残念ながら、馬Aの出番はこれまでだ。23玉で33玉なら馬Aの馬鋸が成立する
のであるが、……。ここは馬Bにお願いするしかない。
34馬以下の『A手順』が繰り返される。
馬Aの出番の局面が再度、出現した。(図面E)
      E図


これでこの作品の作品の構造は大まかに理解できたであろう。馬Aで98歩を
入手するのが詰方の目的である。

馬が遠ざかると変化が難しくなる。少し調べておこう。
図面Fで銀で馬Bを取ると、
     図面F


19龍、23玉、14龍、33玉、34龍、42玉、48香、51玉、54龍、53金、
52歩、同金、同龍、同玉、63銀成、同玉、73歩成、64玉、54飛、75玉、
76金まで。
銀で馬Bを取られたらこの変化の要領で、馬Aの位置にかかわらず、詰む。
図面Gで銀で馬Aを取ると、
     図面G


39龍、23玉、34龍、13玉、14龍まで
馬を取られても龍が活躍して詰む。

1歩を入手し二枚の馬をセットした局面が236手目;図面Hだ。
     図面H


ここからの収束が秀悦。手順を再掲しよう。
43歩、51玉、52歩、61玉、71香成、同玉、81歩成、61玉、71と、同玉、
81龍、同成桂、同銀成、61玉、53桂、同飛、71成銀、同玉、53馬、81玉、
45馬、92玉、(図面I)82飛、同玉、73歩成、91玉、81馬、同玉、
71馬、同玉、72と、まで267手
     図面I


図面Iから始まる大駒捨ては胸がすく思いだ。この収束は本当に素晴らしい。
趣向作としては最善のまとまりだ。
    詰上がり


参考図をみると、馬の動きがよくわかる。
    参考図:馬Aの軌跡→青
 馬Bの軌跡→赤


無限繰り返し手順と馬鋸との組み合わせは長手数を実現する為には定番の
組み合わせでよく使われている。しかしながら、その繰り返し手順に本作のよ
うなスパンの長い本格的な馬鋸が使われた作品はいままでなかった。
その理由は舞台設定の難しさの為と考えられる。二つの馬鋸を干渉せずに
行うにはそれだけで本作のように青、赤で示した空間が必要になる。
残りの空間で馬鋸の変化処理、収束を作らなければならないので、
発想だけで作れるものではない。卓越した創作技術がなければ出来ない。
作者はそれをなしえて、『馬×馬』として我々に披露してくれた。
率直に拍手を贈り作者に感謝したい。

      【解説:近藤真一】

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